「個人再生手続き」とは
個人再生手続きは、キャッシング等の借金の元金を大幅に減額させて、借金を計画的に返済することにより借金を整理する裁判上の手続きです。個人再生手続きは、破産による不利益を回避でき、任意整理や特定調停等の債務整理と比較すると、借金を大幅に減額できるという大きな利点があります。
個人再生手続きは、特に、住宅ローンの支払い中に、住宅ローン以外に多額の借金を抱えてしまった方に有効な手続きですが、住宅ローンを利用していない方でも、多額の借金の整理方法として利用するメリットが数多くあります。
住宅を所有している場合
住宅を所有する方が破産をすると、自宅を失うことになりますが、個人再生手続きの、いわゆる住宅ローン特則を利用し、住宅ローンを除く借金の一定割合を返済するという内容の再生計画案が認可されることにより、自宅を所有したまま住宅ローン以外の借金の整理が可能となります。
また、住宅ローンの支払いが遅れている場合など、再生手続きの中で、住宅ローンの支払い方法の変更を行うことができます。例えば、債権者の同意を得て、滞納分をさらに分割で返済するようにしたり、支払い期間の延長を行ったりすることにより、毎月の返済の負担をできるだけ軽減し、計画的かつ確実に住宅ローンの返済を行えるようにしていきます。
住宅を所有していない場合
住宅を所有していない方でも、例えば、生命保険の外交員の仕事をしているなど破産をすると欠格事由に該当し、職を失うことになる場合や、借金の主な原因がギャンブルや浪費などで、破産による免責(借金の免除)を受けられない可能性がある場合、さらに、破産をすることの家族や勤務先の理解が得られない場合など破産による直直接的な影響はないものの、破産を避けたい方などでも、個人再生手続きにより、破産による問題点を回避して計画的に借金を返済する内容の債務整理を行うことができます。
財産がある場合
また、一定金額を超える金額の財産を持っている方が破産をすると、原則としてその財産を清算(お金に換えて債権者に配当)する必要がありますが、個人再生の場合は必ずしも財産を清算する必要はありません。例えば、仮に自己都合により退職した場合の退職金額の一定割合(8分の1)やローンの終わった自動車で価値があるものは財産となりますが、破産の場合と異なり、個人再生の場合は、必ずしも清算、処分する必要はなく、また、長期間加入している生命保険も、必ずしも解約する必要はありません。
自己破産との主な相違点
個人再生 | 自己破産 | |
ギャンブル等による借入がある | 手続き可能 | 免責不許可の可能性(=借金が免除されないおそれ) |
車や生命保険等の財産 (20万円以上)がある | そのまま保有できる | 原則として財産を処分し配当 |
生保の外交員等の一定の職種 | そのまま続けられる | 欠格事由に該当(失業するおそれ) |
いくら返済すればいいのか
個人再生手続きが認められた場合の返済としては、個人の方の一般的なケース(借金が1500万円以下)では、
①借金額の5分の1
②100万円(法定の最低弁済額)
③財産の合計額
のうち、一番高い金額を返済することになります。
①借金の5分の1 | ② 100万円 | ③ 財産の合計 |
ケース1
例えば、Aさんは、借金が800万円で、財産の合計が90万円ですと、800万円の5分の1の160万円を、原則3年間で返済していきます(毎月45,000円程度)。
借金額合計 (800万円) ×5分の1 =160万円 | 最低弁済額 =100万円 | 財産の合計 ・退職金(240万円)8分の1=30万円 ・生保解約金50万円 ・自動車査定額 10万円 財産の合計 =90万円 |
Aさんは、160万円を3年間の分割返済(毎月約45,000円)となります
ケース2
Bさんは、借金の合計が350万円で、財産はほとんどない場合、100万円を3年(毎月28,000円程度)を返済することになります。
借金額合計 (350万円) ×5分の1 =70万円 | 最低弁済額 =100万円 | 財産の合計 =0円 |
Bさんは、100万円を3年間の分割返済(毎月約28,000円)となります
個人再生手続きの主なメリット
住宅を手放さずにキャッシングやショッピングなどの借金の返済を減額できる
万が一、再生計画による支払いができなくなっても、直ちに給料などの財産の差し押さえを受けることがない(特定調停や裁判上の和解と異なる)
ギャンブルや浪費による借金でも手続きが利用できる(破産の場合、免責不許可のおそれ)
手続きに債権者全員の理解を得る必要がない(任意整理と異なる)
元本を減額できる(任意整理、特定調停と異なる)
財産を清算する必要がない(破産と異なる)
個人再生の問題点
個人再生手続きは、借金の全部を手続きの対象としなければならず、一部の債権者を除外して手続きを行うことができません。これは、破産の場合も同様です。
例えば、ローン中の自動車で所有権留保付きですと、原則として車は引き上げられてしまいます。また、勤務先から借入がある場合や公務員が共済から借入をしている場合は、勤務先や共済組合を債権者として扱うことになり、勤務先に個人再生の手続きを行ったことがわかってしまうだけでなく、それらの借金も減額の対象となってしまいます。
上記の問題については、状況によって何らかの対策がとれる場合がありますが、ここでは触れません。
「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」
個人再生手続きには、自営業者を想定した「小規模個人再生」と、サラリーマンなどを想定した「給与所得者等再生」の2つの手続きがありますが、給与所得者等再生では返済金額が高くなる場合があるため、サラリーマン等の給与所得者であっても、小規模個人再生の申立てをするケースがほとんどです。
小規模個人再生の場合、一定割合の債権者の「不同意」(反対票)により、手続きが不成立(廃止)となってしまいますが、一般的なクレジット会社や消費者金融で不同意を出す債権者はほとんどおらず、給与所得者であっても小規模個人再生手続きを利用しています。
個人再生手続きの利用状況
上記のとおり、個人再生手続きは、破産の場合の不利益を回避して借金の整理ができるという画期的な手続きですが、任意整理や破産と比べると手続きが煩雑であるため敬遠する専門職が多いと思われ、破産ほど利用されていないのが実情です。直近の司法統計を見てみますと、個人の自己破産の新受件数が、年間68,240件であるのに対し、小規模個人再生が10,509件、給与所得者等再生が740件と、個人再生の件数は、破産の約16.5%程度に過ぎません。
ちなみに、みらいリーガルオフィスでは、毎年、個人再生と自己破産の申立件数は同程度であって、地域性などを考慮したとしても、全国的に個人再生の申立てが少なすぎると考えており、本来、個人再生手続によれば、大幅に支払金額を減額でき、計画的に返済でき解決できたものが、任意整理により高額の返済を余儀なくされ結局破綻してしまったり、破産によって思わぬ不利益を受けたりするなどのケースが散見されます。
みらいリーガルオフィスは、個人再生手続きを債務整理の選択肢の一つとして、説明してまいります。